「五分後の世界」村上龍

血と硝煙のニオイがした。

 

 
ここまで鮮明に戦争の光景を表現できる作家さんには今まで出会っていなかった。
非常に残酷な世界、それでいて美しさを感じる世界を主人公の小田桐を通して体験さえられた。

 

小田桐が迷い込んだのは今だにアメリカ率いる国際連合と戦い続ける続ける日本だ。
死を身近に感じながら、生を学んでいく。
生々しい描写が多く眼をそむけたくなるが、読む手を止めることができなかった。
次々と展開していく物語に気が付くと読み終わっていた。

 

特に印象的だったのはワカマツのコンサート場面だ。
本当に音楽が聞こえてくるようだった。
本当に自分がその場所にいるような気にさせられた。
恐怖を感じながら、高揚している自分がいた。

 

そして、その後に続く怒涛のクライマックス。
圧巻のラスト。
「え」となるが、あのラストこそが著者の思いを体現しているのかもしれない。

 

読了後も、あくまで小説、パラレルワールドだと切り捨てるのは勿体ない作品だった。
戦争賛歌ではないが、今生きている日本にプライドと誇りを取り戻すために、あの戦争を振り返ってみてもいいかもしれない。
そんな気にさせられる。
さすがは著者史上最高傑作と言わしめた作品だった。

ぜひ皆さんにも手に取ってほしい